風よ聞け 雲の巻」  北原 亞以子
   講談社       489円



 主人公・伊庭八郎……のハズ。
 でも伊庭は脇役なみの登場率と会話しかない…。くそぅ。



 鳥羽・伏見終結から彰義隊壊滅までの4ヶ月間の江戸が舞台。
 オリキャラの千遠という伊庭の幼馴染と、おなじみ稲本楼の
 小稲の2人の視点が交互に入れ替わる。


 常に伊庭を心に留めているのはいいのだが時期的に仕方ない
 とはいえ、伊庭が全っ然出てこないんですけどっ!
 これ伊庭本?と言いたくなる程。




 彰義隊が結成される一方新政府の人間が江戸へ出入りし、
 東征軍が進軍するという不安定な時勢下の江戸市民を丁寧に
 描いた市井小説という方が正しい。





 そんな中で想い人を持つ女性はどんな路を選ぶのか。
 許婚より伊庭を選ぶ千遠や伊庭を忘れられず、身請け話にも
 乗り切れず廓に留まる小稲。
 2人の心の葛藤や決断や身の振り方は女性作家ならではの
 細やかさで描かれてる。





 けどこの本の最大の魅力はそんな2人ではなくほんの数ページの
 登場の、尺振八夫妻のサイドストーリーと吟香の洒落た言動だ。
 岸田吟香…!こんなトコで出会えるとは思わなかった。
 これがまたスマートな御人柄で惚れます。「もしほ草」常備だし!




 物語の終わり方としては不完全燃焼としか言えないけれど、
 伊庭の箱根戦から箱舘線を描く「完結編」へと続くらしい。
 本当に出るのかは分からないけど、出るなら今度こそ伊庭メインで!!