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「武士の家計簿」 磯田 道史
新潮社 714円
タイトルの勝利。
中身は家計簿を「何日にコレとコレを買って、こんな生活を〜」
という話の運びではなく、やや期待ハズレ。
著者が入手した加賀藩士の家の幕末から明治の約37年間の収支を
綴った文書を前提にして、江戸時代の地方武士の生活史一般を紹介。
家計簿から読み取る部分は勿論あるのだけど、それよりは他の史料から
得られた情報の内であまり知られていないディープな部分の知識が
つきます。ディープていうか日常的過ぎて見過ごしてる部分かな。
武士は俸禄でのほほんと定年後の年金暮らしかの様な生活を満喫して
いた……というわけでもなくて、実際日々の事務仕事は普通の会社
みたいにあったようですね。やっている人は限られてたけど。
猪山家という加賀藩の御算用者の一統を主軸にほぼ時系列です。
最初の方はむしろ猪山家についての成り立ちが延々出てきて肩透かし。
途中からは江戸時代の物価なんかを現在の価値観に照らし合わせて
くれるので結構楽しめます。一両や小判一枚や米一俵の価値とか。
現代の通過に単純に換算できるものでは勿論なくて、物価とか必要
経費の類がまるきり違うからちょっとごちゃごちゃしてますが、結構
判りやすく説明してくれてます。そういうのが面倒でトばしちゃった
としても他の生活面も面白い。
ただし、終始猪山家にこだわりまくってるのはどうかと。
猪山家の財政が傾いて、何を売っていかに凌いでそこからどうやって
幕末を潜り抜けて盛り返したかは引くくらい丁寧に書かれてます。
っていうかそれがこの本のメインなんですよね、きっと。
なのでタイトルの通りの内容を期待し過ぎるのは禁物です。