箱館売ります


箱館売ります」 富樫倫太郎
 実業之日本社   1995円




 読みたくてたまらなかった噂の(?)土方本!
 412ページ2段組にも関わらず1日で読みきりました。愛だ。



 『蝦夷地の一部をプロシア人が賃貸という名目で事実上買収しようと企む。
  財政破綻目前の蝦夷政府は6万両という契約金で手を打とうとするが、
  プロシア人の背後に潜むロシアの不穏な気配に気付き、更に金で国土を
  売る真似が気に入らない土方が新政府軍の蝦夷地潜入部隊「遊軍隊」を
  率いて契約金受け渡しをぶっ潰す!』話。





 史実のガルトネル事件を題材にした思いっきりはっちゃけた小説。
 視点はロシア人側と蝦夷住民の佐幕派、平山君が主。
 序章ではロシア側のストーリーと平山君のストーリーが交互に語られる。
 だが徐々に箱館近辺で交差していき、蝦夷政府首脳が出てきたあたりから
 読むスピードはぐんぐん上がる。やばい、止まんない!





 読みどころはあり過ぎる程あって書ききれないので是非ご一読を。
 小ネタとしては部屋の火鉢で餅を焼いたり、ブリュネのフランス語に適当
 に相槌を打ってくれたり、白いスカーフを戦場に落としてくれたりと色々。
 ホント、土方ありがとう最高です。



 そここにある書評通り土方が最高に贔屓され大鳥が最低に貶められてる。
 「大鳥さんは頭が良すぎる」と言われてるのに西洋オタクで現実認識能力
 の低い男にしか見えない。


 土方が遊軍隊を率いて伝習隊相手に一騒ぎかます時も「松平や人見が率いて
 たらこうはいかない」とまで言われている。そんな一応上司じゃん。




 五稜郭会議を始めとしてテンポ良くノリ良く楽しめる本だけど真摯な場面も。
 市村相手に昔語りをして、新撰組時代をあの頃は面白かったなぁと表し、
 『本音を言えばな、おれは幕府でも薩長でもどっちでもいいんだよ。』
 『きれいな土俵の上できれいに死ねるかってことを考えてるわけだ。』
 とのたまう。そりゃ市村クンだって泣いちゃうよ。




 ラストが箱館戦争のダイジェストになってる。これはもっとさっぱり
 割愛しても良かったんじゃないかな、と思わないでもない。
 そんなところもひっくるめて文句ナシに面白いです。