抵抗の器」   もりた なるお
 文芸春秋     1260円



 主人公・山田顕義。でもここでは市ィと呼びます。
 いえ舞台は明らかに市ィ時代ではないけど。


 岩倉使節団随行員としての外遊から帰ってから西南の没まで。
 明治6年から明治10年までのほんの4年間だけど、市ィを
 語るには軍事から司法畑への移行期間として外せない。




 西南戦争までと書いたけどそれ自体は拍子抜けするほどに
 流されてる。それまでの人事編成についてのアレコレが主。
 佐賀の乱萩の乱に関してもそう。乱自体よりは直前までがメイン。


 徴兵令延期の建白書については市ィのキレやすさがナイス。
 まだ30前なんだからそうだよな。ってか若いなマジで。
 この若さで「兵は兇器なり、兵は対敵抵抗の器なり」と仰る。
 現代社会じゃ考えらんない。





 そして人物評。
 まず市ィが山県を意識し過ぎ!
 何かにつけ有朋の策謀では…と思い巡らすのは片思いすぎる。
 山県も大久保を頼ってまで市ィを軍事から切り離そうとするし。
 注目すべきは俊輔のちょこまか具合!陽気な世渡り上手、その実
 抜け目ない政略家といった匂いがぷんぷんする。


 それでも桂さんを気に掛けて日本橋の料亭で持成す辺り憎めない。
 その桂さんは終始鬱気味。「歳月」の鋭さが欲しかった。 



 全体的に実力にそぐわない不遇ぶりのおかげで哀愁漂う作品。
 も少し器用に…!と願わずにいられないよ市ィ!!
 たまーにちらっと出てくる高杉の影に感謝。




 絶版な上古書系ネットでも見当たらないのでリンクはアマゾン。
 単行本版ならあるようですが5020円なので図書館へゴー!