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「ばかもの」 絲山 秋子
著者の十八番な駄目人間の堕落生活。でも文体が淡々としているので耐えられます。
最初の方にやたらとセックス話をしつこく置いてあるのでここで辟易しましたが。
救われてるような何一つ変わっていないような、そういうラスト。
それがリアルさを増してて好感持てます。改善も改悪もそうそうないよっていう。
「あの空の下で」 吉田 修一
ANAの機内誌に掲載されていた小話を纏めた短編集。
だからといって全てが飛行機に関連付けた話、という訳ではないです。
1話1話は数ページの短さ。でもどれもに日常のワンシーン+αな小さな
感動や葛藤や苦渋や決意がうまーく組み込まれています。
こんな短い一編で何でこんなにってくらい印象に残る物語があります。
個人的には「自転車泥棒」
事務系女子社員ならきっとみんな胸に残るお話だと思う。
「アイスクリン強し」 畠中 恵
明治初期の西洋化への模索はとっても滑稽でとっても魅力的です。
お菓子業界ももれなくその洗礼を受けていますがその最中の西洋菓子屋さんが
なんやかんやと事件に巻き込まれては頑張る話。
小道具で使われる明治初期の西洋菓子がわんさか出てくるのでそういうのが好きな
人は本編と関係なく楽しめちゃう。チョコレイトやカステイラへの日本人の認識
もこれだけで面白い。本編のやや重たくなるシリアスな流れは特にインパクトは
ありませんが、タイトルで勝ちじゃないでしょうか。
「ガリレオの苦悩」 東野 圭吾
大人気のガリレオ・湯川シリーズ。ハードカバーを2冊同時発売なんて、本当に
東野圭吾の筆の早さには頭が下がります。読むのも大変です。追いつくのが。
聖女と違って短編集のこちらのがガリレオ初心者には親切設計。
ドラマの柴崎コウにあたる刑事が出てくるので、映画→ドラマ→原作な方にも
東野作品を読み出すいい切欠なんでしょうね。売る側も上手いなぁ。
力の入ってるシリーズだけあって切り口の突飛さも狙いまくりな展開も面白い。
「sweet aunt」 さとう さくら
事故死した両親の洒落た生活は全部見せかけで保険も貯金も何もない。
そんな状態で高校生が残されたらそりゃあキツいだろうと思います。
主人公はそんな服飾好きな女の子が地味な叔母の元でチャラい彼氏の知り合いの
古着屋で働いて、行き詰まりながら絶望しながら少しずつ自分の世界を切り開く話。
ラスト付近のスパートはかなりなもの。前半のアンラッキー度は飛んでいきます。
恵まれたチャラい彼氏とのイザコザはどうでもよいけど、ゲイ疑惑のある古着屋の
やる気ゼロな店主がいい味。主観ですが平田さんの声でいいと思います。
どことなく「ご近所物語」的なラストはやっぱり憧れますね。楽しそうで。