田村はまだか」  朝倉 かすみ
 装丁とタイトルにやられて購入。
 更に設定と言葉にノックアウトの一冊です。
 深みがあるんだか軽口ノリなのか判別しがたいが、結局は
 人生の名句とも思いたい何気ない一言をちょこちょこと
 残してくれている。是非ご一読を。
 会話文が多いのでとーっても読みやすい。
 舞台はバーで最初の語り手はバーのマスター。
 小学校の同窓会の二次会の男女四人が社会人になった今
 各々の過去を振り返りながら「田村」という同窓生を待ち
 続ける。「田村はまだか」と酔いを重ねながらも過去と現代
 それぞれに思うところのある大人たちの心情の機微を密かに
 一章仕立てにしている。これはきっと誰しもが誰かにはあて
 はまるんじゃないかな、と思わせるくらい特別じゃない人生。
 なのに妙にハマるんですよ、彼等の語り口。
 軽妙な感じは石田衣良っぽい。あれをもっと親父くさくした感じ。
 これだけ待ちわびられる田村はそれだけの価値が在るヤツなのは
 確かではあるけどラストには驚かされます。こうくるか!って。


みどりの月」  角田 光代
 どこか一つ二つ欠けた人達の物語。
 表題作と「かかとのしたの空」の2編入りですが、どちらも
 日本での所謂型通りの生活から弾き出された人達のお話です。
 「みどりの月」は社会一般的にちょっとどうよってくらいに
 日常生活に馴染んでない同居人を持つ恋人の家に、型にはまる
 事を人生の課題としていた主人公が同棲を始めるところから
 スタートします。好き勝手に行動する恋人と同居人ズに振り
 回されて、日々の鬱憤がどんどん溜まる主人公の姿は自分を
 被せると非常にしょっぱい感じになってきます。
 2編目は実際に日本を飛び出して東南アジアをあてもなく放浪
 する倦怠した若いカップル。これが愛情の色メキが欠片もなく
 結婚してるという設定を忘れる程にパサパサした二人。
 どちらの主人公も苛立ってるのに何に対してか、どう逃れる
 のかを模索する事にすら疲弊してる。角田さんはこういう人間
 を描くのが本当に上手です。




僕僕先生」  仁木 英之
 ちょっと不思議な少女の仙人と官僚の息子だけどニートの青年。
 二人してちょっとしたお悩み解決したり冒険してみたりする
 修行の旅らしきものに出るお話。
 物語の大きな筋よりも毒舌な少女仙人と気弱なニートの会話が
 とっても楽しいです。
 唐の時代が舞台設定なのですが、上手くその時代の慣わしを
 説明しつつも堅苦しさはゼロの本。期待以上でした。
 続編でないかなぁ。




枕女優」  新堂 冬樹
 女優を目指した女が芸能界で卑怯な駆け引きや裏切り・裏切られ
 を経験し、やがてトップ女優となる頃には取り返しのつかない
 程に病んでしまうお話。
 新堂冬樹らしさが全開に出た悪意だらけの一冊。
 芸能界の裏を描いた!というキャッチコピーなので、予想は
 ついてましたが、本当に出てくる人がみんな悪意の塊。
 タイトル通り枕営業は当たり前、なのは本当なのかなぁ。
 でも芸能界の厳しさそのものではなくコロコロ視点の女性が
 変わる叙述方法は終章で全部繋がります。ってか途中で薄々
 気づける事ではあるんですが、最後まで救いがない本。




沈底魚」  曽根 圭介
 警視庁公安部の刑事コンビが 大物スパイ「沈底魚」を追う。
 というだけの単純な話ではないのですが、スパイだったり実は
 ダブルスパイだったり実は既に裏切ってたりとか複雑です。
 中国の工作員・政財界の大物達・防衛庁、と仰々しい面子が
 これでもかと出てきた上にハイスピードでどんでん返しが起きる。
 とは言え、疾走感溢れる「もう手が止まらない!」という類に
 はなりませんでした。感情移入はむしろ出来ない。
 こういうスパイもの社会悪ものに慣れてる方にはいいのかも
 しれません。が、慣れないと読むのが面倒になりそうな単語
 ばかりです。




 今回のジャケ買い
  
 インディゴの夜、これは単行本の時に読んでたのですが、文庫化
 でフェイバリットイラストレーター様の一人、ワカマツさんが
 表紙を担当されてたので迷わず買い!でした。
 健全なホストクラブの女性オーナーが成り行きで探偵役になり
 夜の街の事件をなんだかんだでホストと力を合わせて解決する。
 石田衣良っぽいと言えそうな話です。
 ホストが皆一癖あって漫画みたいなノリ。