ジバク」  山田 宗樹
 年収2000万の男の転落人生。
 他人の不幸は蜜の味とは言うけど、事故だの足切断だのと凶悪な
 不運過ぎて蜜の甘さは味わえません。溜息つきたくなる小説。
 面白おかしくっていう部分はなく、また転落していく本人が何と
 なく嫌なヤツで感情移入ができなかった。
 だからといってザマーミロ的な爽快感もない。
 タイトルとか表紙とか著者の既刊からみてもう少し、ユーモア
 要素のあるどん底人生を描いたものかと思ったのにな。




 「第四の闇」  香納 諒一
 妻をネット心中で亡くしてから荒れていた主人公が不可解な電話を
 きっかけに過去の心中事件の闇部分の解明に乗り出す羽目になる。
 おっさんと20代のネット世代との会話が個人的には良かった。
 どんどん規模が大きくなり日本中のマスコミを巻き込んだ規模に
 まで発展していくのはちょっと置いてかれた感がありました。
 でも流れは不自然さもなく社会派ミステリとしてありだと思う。
 ネット世代の若者のイメージがやや古臭いのは否めないが、それを
 差し引いてもキャラの強い登場人物たちは楽しい。
 ただしやはり自殺がテーマなだけあって、重苦しい空気が全編に
 漂う上にラストはハッピーエンドとは言えないけど、こういう
 テーマで無闇矢鱈にポジティブさを提示されるのも苦手なので
 これくらいでいいんじゃないかな。




サウスポイント」  よしもとばなな
 久々に読みましたよしもとばななさん。
 少々特殊な育ち方と感性を持つキルト作家の主人公。
 彼女とハワイに住む一度は疎遠になった幼馴染の男の子の
 一風変わった恋のお話。恋の話と言いつつもメインはもっと
 根源的な「愛情」がテーマのようで、単なる切なかったりする
 恋愛ものとは一線画してます。
 メインストーリー以外の主人公の感受性の描写やハワイの描写が
 淡々としつつとても柔らかくて優しくて、そしてシュール。
 この辺りはさすがよしもとばななと言いたい。
 「人間には必ず自分の地に足のついた着地点が見つかるもの」
 こういう言い回しをさらっと使っちゃうのが好きなんんです。



狐火の家」  貴志 祐介
 硝子のハンマーの女弁護士と裏のある防犯グッズ屋の第2弾。
 正直言って貴志祐介の本の中では好きな類ではないので、まさに
 貴志祐介だから読んだ、っていう感じですが。
 防犯グッズ店のオーナーはまぁよくいると言えばよくいる、
 飄々として人を見透かす探偵役。
 今作は短編集なので、専門知識を詰め込まれていて門外漢には
 厳しい。いっそ主人公コンビの会話を楽しむに徹する方が楽しい。
 でもやはり著者の作品の中ではインパクトに欠けるかな〜。



 「少女には向かない職業  桜庭 一樹
 タイトルが気にはなるけどきっと好きじゃないだろうな、と
 思わせるものだったのでなかなか読まなかった一冊。
 結局は職業っていう程でもない、未必の殺人劇でした。
 薄い本で2度の殺人が行われるのだけど、どちらかと言うと
 殺人行為や準備ではなく背景や主人公の少女と共犯となる少女の
 心情機微を詳細に描いています。
 思春期の少女らしからぬ環境の思春期らしい葛藤はやや苦手な
 分野なんですが、そこは筆者の力なのかすんなり読めたかな。
 ただ、どうしてもタイトル負けという感じがしないでもない。