最近読んだ本達


       


     




 「食堂かたつむり」  小川 糸
 インド人の彼氏に振られた主人公が傷心のまま郷里へ戻り自給自足的な
 小さな食堂を開く。そこを訪れた客との小さな短い、けど確実に作り上げ
 られる暖かな交流の物語。
 一番の特徴は主人公が失恋のショックで声を出せなくなる事。ですが
 作中ではほとんど問題なく筆談で進む。主人公視点なので会話がなく
 ても違和感がないです。よくあると言えばよくある設定だけど、郷里の
 実母との不仲は結構シビアです。料理や食材への描写が細かで魅力。
 と思ってたら終盤で一気にシリアスな展開&感動モノに。ややいきなり
 過ぎる展開でしたけどそれでも母からの手紙には泣きそうになった。


九つの、物語」  橋本 紡
 本を読む大学生の「私」と頭の回転が速く癖はあるけどカッコよいモテる
 男、でも幽霊な「お兄ちゃん」とやや穏やか目だけど極めて普通の彼氏の
 「香月君」の3人が主軸、という帯でしたが主軸は兄妹の話。
 9つの文学作品を一編ごとに少しづつ絡めて主人公の機微に合わせた
 解釈をあれこれしてみせたりするのが一風変わってて面白い。
 何より作品のチョイスがどれも著者は聞いた事あるけどコレは読んで
 ない…というマイナーチョイス。一番有名で山椒魚かな?
 兄が典型的なエキセントリック天才肌!と序盤で思いましたが実は意外に
 普通な青年でした。でもいい味だよ兄。シスコンなのもまたよし。
 香月君と主人公の淡い青春物語は大学生というよりも中学生日記です。


夜を守る」  石田 衣良
 また石田衣良。なのでさくっと。
 お得意のストリートボーイズの人情モノ。アウトローだけどダチは宝だって
 事くらい知ってるぜ!なたまにオタク特化した20代はもう専売特許ですね。
 でもこの人のこういうの大好きです。アキハバラ@ディープみたいな。
 アメ横の万事屋4人組は潔く爽やかでお勧めです。
 どこかで見たような、とかは言いっこなしで!


ブランケッツキャッツ」  重松 清
 レンタル猫のお話。
 3日間だけで延長はなし、餌は決まったものを、付属の毛布は洗わずに。
 色んな条件がつくけどでも名前はあなたのご自由に、なレンタルペット。
 たった3日。されど3日とはまさにこの事です。
 連作短編集なので様々な登場人物が様々な理由と事情で猫を借りにきます。
 けれどそこはやはり生き物なので人間の思う通りに事が運ぶわけもなく、
 予想外の事態を招いたり、想定外の影響を受けたりしちゃいます。
 見過ごしてた些細な愛にも傷にも気付かせてくれる猫たち。
 純粋な癒し小説とは一味違って、けどどれもほんわかと読み手の心を
 柔らかくほぐしてくれる仕立てです。


霧のソレア」  緒川 怜
 書店で思いっきり平積みされてたのでつい買っちゃった本。
 の割には楽しめました。アメリカ・反米勢力・ロシア・原発エトセトラ。
 分かりやすく巨大勢力の絡み合った陰謀モノ、かと思いきや現場の旅客機は
 そんな事は当然無縁に墜落のピンチを切り抜けようと頑張る根性モノ。
 女性副操縦士という設定が果たして生かされているのか分かりかねますが、
 客室乗務員の鳥越(?)さんのプロ意識にはちょっと尊敬です。
 空の上のウェイトレスと侮られる客室乗務員ですがああいう軽く爆破されて
 どてっ腹に穴開けた状態で氷点下の中でもお客様の生命と環境を第一に!と
 行動するのが本当ならそんな侮りは全く的外れになるなぁ、と。
 個人的には日本の自衛隊の戦闘機乗り達が出撃するまでが良かった。
 百里タワーとのやり取りの英語がカタカナなのはどうにも読みにくいですが。


ラフ」  本間 文子
 仕事も家庭も恋愛もあんまウマくいってない主人公のラフラ・26歳。
 音楽しか取り柄がない筈の彼女に追い討ちをかける出来事を仲間と
 飲みつつ男友達と綱渡りな関係の中慰められつつそれでもどうにか
 やってます!というまぁケータイ小説なノリですね。好みではない。
 追い討ちをかける出来事って喉のポリープですが。あ、ネタバレ?
 でもこれは先が読める展開なので…。読み出せば一発です。
 それでも手にとったのは前に紹介した「こいわらい」もそうですが、
 装丁読みです。装丁ってかイラストレーターさんが気になって。



朝日のようにさわやかに」  恩田陸
 超々短編から短編までもさっと詰まった一冊。
 恩田陸らしい「匂わせる恐怖」や「生理的な嫌悪」が結構多いかな。
 でも短編なのでそんなに怖くなくて、恐怖の末端だけを味わう感じ。
 ものによってほろっと感動モノの欠片だったり、情アツい人間の一面だったり。
 2ページ程度でも一作品にしてしまうのはさすがですね。
 どれも雑誌や企画なんかへの寄稿文らしい。
 お気に入りはホテルマンがルームサービスを運ぶ話。
 ぞわぞわぞわっとします。



 今回の装丁買いNO.1「アイスマン。ゆれる」  
      梶尾 真治
 アイスマンて何かと思ったら月下氷人のことで、月下氷人て何かと
 思ったら仲人、仲介人のことらしいです。
 おまじないで願うと他人の恋を成就させられる主人公のセツナイお話。
 装丁の絵が特にお気に入りってわけじゃないですが手触りがいいんです。
 ついつい撫でてしまう感触。是非触ってみて下さい。