「ねじの回転」    恩田 陸
  集英社      上・476円 下・457円



 読みたいと思い続けつつなぜか機会を逃して数年。
 読み出せばあっという間だった。


 2・26事件本ではなく、事件の中心にいた数人が未来の記憶を
 持ったまま、史実通りに事件を『再生』する使命を受ける。
 史実と不一致となれば記憶は連続しているが再生した時間は
 リセットされやり直し。


 再生の使命を帯びたのは安藤・栗原・石原。
 ただし序盤でこそ不一致にならないよう行動していたが、些末な不一致は
 見逃されることに気付き、別の思惑が生まれる。
 日本にとって不本意終結と未来に導いた事件をそれぞれがそれぞれの
 思う「より良い」方向へ運ぼうと思い始めてしまう。
 更に史実の再生を指示し監視している未来人側からもトラブルが
 発生し混迷していく、という物語。



 やり直しを含めた再生可能時間にリミットがあるのが最大の工夫。
 おかげで全編通して緊迫感が薄れない。
 加えて、ハッカーや未来の病など読み手の予測を上回るトラブルが
 続発するので全くダレない。どころか2・26の悲劇的な空気を
 保ったまま、疾走感すら抱かせる急展開ばかりだ。


 けど時折挟まれるモノローグの静的な空間描写もさすがで、
 ドタバタ劇の態は皆無。
 恩田さんらしい時間軸交錯の叙述が前半は謎を後半は終末への
 悲観を煽る。


 独特の擬音や太字での視覚テクもとても顕著で「六番目の小夜子」を思わせた。
 あれ、ラスト以外は本気で恐かった。



 視点切り替えが多く、文体も幾つか使い分けてるので初読だとこの
 モノローグ分からんて部分が出てくるけどちゃんと収束されてます。
 伏線全てが収縮された時にいちいち一つ一つを深読みするよりは
 ノリで読み切ってしまう方がいいです。


 ラストは歴史のIF本を期待してはいけない。
 でも「結局それかよ」という感想は持たないとおもいます。
 人によっては読みづらかったり引っ掛かりを覚えたりするだろうけど、
 2・26事件に少しでも興味があるならぜひ。


 あ、でも戒厳司令部側は出張りません。
 石原のスタンドプレーのみです。「一喝」はしびれる!