「吉田松陰」全2巻  山岡荘八
  講談社文庫   640円




 松陰先生本。
 小説で松陰先生ってのはなんだか新鮮だ。
 研究本系とか他の長州人本で名前や回想でなら腐る程見てるが。



 前半分は幼少時の松陰。
 この人の志の高さと早熟さはもう実在とは思えない。
 ま、この時代はそういう人達だらけでだからこそ魅力なのだが、
 松陰先生は言動の質と信念の温度にギャップがすごい。


 才に合った評価を長州藩内では受けながらもその視野の広さ高さ
 のおかげで藩外、やがては国外まで向けられた意識のせいで
 やがて罪人になってしまう変遷は丁寧。


 ただ、罪人であり中々周囲に理解されづらかったにも関わらず
 長州人の目はやはり優しい事が救い。
 高杉たちの本と同じ長州独特の藩士への温情はほっとする。



 自己の熱に従って他藩士と交流し草莽蹶起を呼びかけてしまう
 辺りは次世代の実行者達に比べれば時勢を見る目が足りなかった
 のかと思わざるおえない。やはり実行を至上としつつも
 松陰先生本人は思想先導者か教育者が本質だったのかなぁ。
 何故かこの人だけはナチュラルに「松陰先生」呼びだし。