五稜郭を落とした男」  秋山 香乃
        文芸社  1890円




 主人公・山田市之允と言いつつあの高杉の存在感はどうしたことだろう。


 四部構成で「松陰先生」「久坂玄瑞」「高杉晋作」と山田のつながりを
 それぞれの章で顕著に書いてあります。最後にある北越・函館戦争辺り
 が秀逸。取っ掛かりとしては分かりやすく流れを掴みやすい。



 そして一種市ィの成長記。
 松陰先生の頃はやけに打ちひしがれてますが、久坂に「義助と呼べ」と
 言われ急上昇。高杉の章の頃には「気安く市ィと呼ばれては迷惑です。」
 とまで言い放ちます。(軽くスルーされてますが)
 戦術面に関しても特に後半は山田の名将ぶりが発揮されてきます。



 この本では山田は始終自分が上士階級である事の葛藤を抱えていますが、
 下層出の兵ばかりの奇兵隊・諸隊の中では理解され難い葛藤なので、同じ
 上士である高杉に遣る瀬無さの共有を求めていたりします。だから仲良し?
 「惚れた貴様が悪いのさ。」「惚れた弱みじゃ〜」の節では山田の自信満々
 の発言が素敵です。確かに成長してる。うん。


 高杉との大島奪回シーンも好きですが、何気に禁門の変で討死を覚悟した
 入江と交わす「楽しかったのう。」「はい!」の辺りで泣けそうでした。
 そしてよく言われてますがここでの山県は高杉大好きです。有朋卿を見る目
 が変わりました。



 まぁこの本はこういった幕末系の書評じゃ至るところで紹介されていて言うに
 及ばずな気もしますが、例にもれず勢いで読破できた一人なのでハマりかけ
 の頃に読めば幕末熱が加速する事請け合いです。