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「アカペラ」 山本 文緒
久々の山本文緒の短編集単行本。
3篇のどれも何処かしらアウトローを感じさせる人々の物語。
家族が根底テーマなのか、瑕疵ある家族との関係性を苦しくても
切り捨てられない、癒せないまま繋いでる喜ばしいとは言い切れ
ない絆が個人的にはとても染みました。
この人は傷ついた瞬間じゃなくて回復も再生もさせられない抱え
てる傷を描くのがとてもうまい。どうしようもないんだと改めて
認識してどうしようもないまま終わるのに後味は悪くない。
ほんのちょっと希望の欠片の欠片みたいなものがちらつくから
でしょうか。そうでなければ小説になりませんが。
2話目の自他共に認める駄目男が一人称の話は読んでいてて山本
文緒っぽくない文体に思えて目新しい感じでした。
歪な形でも生きてる人の諦観と静寂と機微と光の一冊でした。
「√セッテン」 椎名恵
ケータイ小説の書籍化。
とは思えない質です。文体も構成もしっかりしてる。携帯電話絡みのホラーとい
うと「着信アリ」がまず浮かびます。
似たようなと言ってしまえるありがちな現代ホラーですが、厚さを感じさせない
スピードがある展開です。√と名付けられた謎の女と続く殺人。
人がよく死にます。ネタやオチよりキャラやノリが面白い。
こんな書き方ですがどっしりとシリアスで本当はちょっと切ないお話です。
「やつらを高く吊せ」 馳星周
スキャンダルハンターたる主人公がポルシェを乗り回しながら巨大組織付きの裏
社会を疾走するバイオレンス・アクションとおおっぴらなエロの連作集。
まさに駆け抜けろ!なストーリー仕立てと文章です。重苦しさはなくて
読みやすいかと思ったけどむしろキャラが勝手にテンション上げていってしまう
ので置いてかれました。
「神の狩人」 柴田 よしき
私立探偵のサラという女性が主人公の近未来陰謀もの。
陰謀ものというのは恐らくシリーズ化される今作全体に対しての事です。
一冊としては舞い込む依頼に奔走する連作。
ただ、そこかしこに裏があるよ!という伏線の主張がばらまかれてます。
身内がグルで口をつぐむ女性の捜索。
人を必ず死に導くセックスドラッグ。
耳障りはB級くさいですが主人公の過去の秘密や胡散臭い医者もあいまって、
正しくB級娯楽小説です。
キャラはいまいちですが近未来の細々した小道具がリアルで楽しめた。
ホント、数十年先にはこうなってそうだなぁ、と。