「歳三の写真」   草森 伸一
  新人物往来社   2940円



 箱館時代の土方本。
 写真という新時代の象徴を目の当たりにし、戸惑いと葛藤を
 覚えつつも新時代の適応者達に眩しさを抱く。
 そんな結構センシティブな土方。


 伝わり始めた写真がどういう材料を使ってどんな風に撮っていたか、
 というマニアックな部分も説明されていて、新たな発見も出来た。


 田本研造という日本で最初に義足を付けた男というオプション付の
 写真家が決定的な距離を保ちつつも宮古湾や二股まで行動を共にし、
 土方にある種の刺激をもたらす。


 物語全体にそこはかとなく漂う切なさはきっと箱舘の旧幕軍や彼等の
 戦いと、既に次の時代が始まっている東京などとの温度差だろう。
 決定的なその温度差に気付いている土方は自分が淘汰される側である
 事を確信しているが、それでも「まもなく田本の時代がやってくる。
 それはおそろしい時代になるだろう。それを俺は知らなくてもよい。」
 と切り捨てる潔さと聡明さを凌駕する自分への義は感動した。


 熱く語る文章ではないし主張の激しい文体でもない。
 けど忙しさの合間の土方を淡々と描きつつ見せ場はちゃんとある。



 そして伊庭が。
 出張ってくれてありがとう!休日にぶらりと松前から訊ねてくる
 というのがありえるんだかよく分からないけど希望としてはアリで!
 オフィシャルで色男な伊庭なのでやはりここでも『いい男』。
 伊庭のトレードマークの御家人言葉も健在で素晴らしいし文句なし。