蒲生邸事件」  宮部 みゆき
  文春文庫      899円 




 時間旅行者に連れられてうっかり226事件真っ只中へ。
 混乱の世界で起こった陸軍大将蒲生憲之の不審な自決。
 歴史を知らない現代人・尾崎孝史は雪の降る帝都で何が為せるか。




 …というどシリアスなミステリ。
 舞台が226事件の4日間なだけでも読まずにいられない。
 でも読んだ当初は宮部みゆき作品だから、という方が大きかったな。



 メインは当然蒲生邸内の事件なので226の詳細は描かれてないが
 緊迫した空気の中でも案外普通に過ごす街の人々やバリケード
 張る兵達の姿の描写はやっぱり宮部みゆきならではの巧さがある。
 雰囲気だけなら充分226事件を味わえる気がする。



 蒲生邸の住人達、蒲生大将の身内だけど、彼等は例外なく屈折して
 いるし、主人公・尾崎を連れてきた時間旅行者はその能力ゆえの
 悲嘆があらゆる意味で付き纏っているしと、物語を通して悲壮さ
 というか暗さが漂う。時代背景と相乗効果でますますシリアス。


 けれどまず主人公が「歴史に疎い」という設定なので、歴史モノ
 という壁を感じずに済む上、文体に肩肘ばったところがないので
 すんなり物語に入り込んでハマれる。
 226事件を求めてしまうと物足りないけどね。



 宮部先生お得意の気風のいいおっさんや気位高い臆病者の蒲生大将の
 長男・貴之など魅力的なキャラが揃っている。
 宮部作品のレベルの高さは安定感があってホント読んでて安心です。