「桜田門外の変」      吉村 昭
    新潮社        上巻/539円  下巻/579円




 主人公・関鉄之助。
 万延元年の桜田門外の変に参加した水戸脱藩浪士。
 彼を中心に水戸の改革派たちの動向、徳川斉昭の葛藤、
 旧体制から抜けられない門閥派の画策などを生々しく
 描いた渾身の一作。



 生々しいと言えば、表題の桜田門外の変
 鮮やかとはいえない襲撃ながらも国事と信じてまっとう
 せんとする水戸浪士達の描写が滑稽なのに笑えない。
 悲壮さが常にまとわりつく水戸藩の象徴のよう。




 一つの学問に対するの解釈というか、それをどう用いるかという
 応用が藩内でも個人や派閥で異なっているのはどの藩も同じだが
 水戸藩ではなまじ「水戸学」という元祖、核のような系統だった
 ため、対立が根深く激しく、ついに水戸藩という一つの国の中で
 内乱状態にまで陥らせる対立になってしまった。


 おかげで維新の大舞台には加われず、明治も陽の目を見ない。
 そういう水戸藩の特異性の原点を考えさせられた。
 維新中の長州に負けない程の死者を出したという悲劇も
 いずれ改めて本を読みたい。


 それにしても桜田門外の変前後をここまで詳しく叙述する
 なんて吉村さんには敬意を表しちゃうな。
 3月3日のあたりは細かいルートや鉄之助達の綿密で周到な
 計画がこれでもかと描かれていて、ついつい惹きこまれた。


 水戸藩に惚れてしまいそうだ。