高杉晋作 奔る」  古川 薫
  講談社文庫   397円




 高杉晋作の一生を、明治以降まで生き延びた縁者達が
 各々最も関わり深かったエピソードを中心に語る形式。





 松下村塾のもう一人の先生、富永有隣
 高杉の生意気ながら芯の通った自尊心を貴重なものとして
 ややクセのある目で見守り、また夭折を惜しむ。
 富永の所作は粗野でダメ親父風。でもどうにも憎めないキャラ。
 禁煙を3日で破り高杉に抗議文を書かれたりと村塾時代メイン。





 高杉と志士活動を共にした堀真五郎。
 入江・高杉と3人だけの血盟書を交わした経緯として、
 賀茂行幸中の将軍暗殺未遂を暴露する。
 何気に久坂たちより自分のが高杉の近くにいて理解していた、
 とアピールしてる。


 一家総出で奇兵隊に尽くした白石正一郎
 出逢いから福岡亡命直前まで。
 この人は史実で高杉に入れ込んでいるので、もうそのまんま。
 白石の元に嫌味を言いに来た馬関の小役人を高杉が一蹴する
 場面がお気に入り。他の本では見られないシーンですしね。


 功山寺決起の決断が自慢の俊輔。
 この挙兵に参加した事が余程嬉しいのか山県へは優越混じりの
 同情の目を向けているくらい。
 堀と同じく自分こそが高杉の理解者、と自負しちゃっている。
 「幸運の志士」よりは素直。


 尼になっても長州閥と繋がりのあったおうの。
 彼女の章ではあまり主観的ではなく、高杉の死までの流れを追って
 いる感じかな。三浦に対する一言は結構痛烈。




 
 以上5人の回想録。
 というより俊輔の章であったが末松謙澄の「防長回天史」用の
 インタビュー、という形式になっているようだ。
 5人のいずれも預かり知らぬところの高杉はスルー。でも充分。
 創作もちらほら(特に堀)だけれど、それぞれの高杉への印象も
 様々だし突込みどころも多々あって楽しい。




 そして読み物としての面白さとは別に、全編通じて作者の主張する
「甘い汁を吸ったのはみな二流の人材だ」(富永有隣の項)
 というのがあり、幕末の特に長州にとっては思い言葉だ。



 俊輔などは生き残った者は清濁合わせ飲んでもやるべき事があり、
 代わりに批判も甘受する、途上で倒れた者はその代わりに英雄
 として扱われる、と割り切っていてとっても「らしい」
 こういうある種達観した俊輔は嫌いじゃないな。




 古書店か図書館でどうぞ。