胡蝶の夢」全4巻 司馬 遼太郎
  新潮社    700円(第1巻)



 幕末の蘭学医松本良順が主人公。
 司馬先生の作品の中でもかなり上位に位置する物語!と思う。
 医学者たちの幕末維新も一つの戦いだったんだな、と実感。
 そして明治以降まで持ち越されるのも政治と同じだ。




 主に良順と良順に見込まれた記憶の達人・島倉伊之助が主軸。
 漢方医ばかりの奥詰医師の中で唯1人先進的であったが故に
 疎まれる良順と記憶力語学力が優れていても人間性に欠陥が
 あり社会適応が出来ない島倉。



 それでも根性で長崎へ渡り軍医ポンペに師事。
 彼の「患者に身分の差はない」という思想を受け継いで
 医学伝習所を開き西欧の平等思想の普及に努める。


 やがて江戸へ戻り、幕府軍医総裁になるが戊辰勃発後に伴い
 会津へ脱出。この辺りは土方関連の本でも見かけますね。




 主要な登場人物としては上記2人の他ポンペとポンペに良順と
 同じく師事した間寛斎がいる。
 ポンペは日本からの帰国後は医者として大成はせず、間寛斎は
 会津では官軍の従軍医として良順と相対する事になる。



 4人共がハッピーエンドとは言えない。
 特に島倉の晩年は才があっても身分や運に恵まれなければ何を
 為すことも出来ない、という現実を突きつけられる。


 だけど悲壮になってもおかしくない境遇の物語でありながら
 全体的には強く明るく、という陽気さを纏わせた本になってる。
 これにはやはり江戸っ子良順の粋な性格が大きいのだけど、
 それを抜いても蘭学という西洋の新学問を学ぶ人達はやはり
 どこか希望や期待を常に宿していて、読んでいて気持ちがいい。




 新撰組や長州・薩摩を一通り読んだ人なら絶対読むべし!