彰義隊遺聞」   森まゆみ
  新潮社     1680円



 彰義隊にスポットをあてた紀行ちっくな一冊。


 小説ではないが細々した魅力的なエピソードが豊富で
 幕末の漢字や名前に慣れていれば停滞せずに読めちゃう。


 関連の土地や彰義隊を題材にした後世の作品を随所で
 並べながら綴る懐古的かつ回顧的と言える。




 華々しく人気のある新撰組にも負けないドラマが彰義隊
 にもあったんだぞ、という立場の本なので語り口も大変
 彰義隊メンバー寄り。



 ただ、5月15日に半日で壊滅した敗因については兵器の
 差もあったが、隊内に明確な指揮系統がなく、末端のものの
 動きがさっぱり連携できていなかったなどの厳しい見方も
 しっかりしていて好ましいです。




 彰義隊が好きすぎるのか説明が微に入り過ぎて読むのに飽きて
 くる人もいそうだけれど、代わりにやや興味のあった人になら
 目新しいネタも目白押しだと思う。


 彰義隊の最初の隊長が渋沢栄一の従兄の渋沢成一郎なのでこの辺り
 にも一章割いて触れている。




 意外と丸毛靭負にちまちま触れていてくれて嬉しかった。
 箱舘まで行っていたのは知ってたけど維新後に毎日新聞の記者
 だったとは初耳だった。へぇ〜、そうだったんかぁ。


 しかし期待しまくっていた春日さんは最終章で数行のみ…。
 それに既知のくだりしかなかったのはやはり資料の少なさからか…。




 ところで全くもって個人的嗜好なのですが、樋口一葉彰義隊士の
 娘を扱った作品を著したという話から派生して馬場胡蝶→馬場辰猪
 まで筆が及んでいた望外の喜びだった。こんな所で馬場の名が…!
 彰義隊の奥は深そうだ。





 江戸っ子が多く金払いの綺麗な遊び上手が多かった彰義隊士。
 「情夫に持つなら彰義隊
 と江戸の遊郭どころか町娘にまで云われた彼等こそが江戸の花だ。