散華 土方歳三」  萩尾 農
 新人物往来社     1800円(定価)



 舞台は主に伏見以降。
 ものすっごい斎藤ヒイキ!
 これは「歳三往きてまた」と張る程に土方が愛され系。
 こちらのがより繊細な性格、というかやや女々しい。



 伊庭の参軍時期や相馬・野村が奥州で行動を供にしてる
 ところとか史実に忠実ではないけれど、著者の方は小説
 ならではの遊びとして書いている節がある。


 何より斎藤が箱舘へ来てしまい、土方を看取る下りは他では絶対
 見られない思い切った創作なのでこれだけでも読む価値あり!




 伏見から箱舘メインではあるものの、その時期に旧幕軍に加入
 した人達にはあまり触れていないかな。星くんは名前だけだし…。



 守衛新撰組も主に島田・相馬辺りのみ。
 ただ、宮古湾ではやはり野村利三郎。この場面の野村はどの
 本を見てもめちゃめちゃ男気溢れていて感動する。



 伊庭も島田も常に土方に優しい視線を向けてくれる。
 京都から落ちて、土方もそれらの目に素直に応えます。
 涙だって笑顔だって赤面だって見せ放題。



 更に斎藤はもう土方の中でも特別扱い状態。
 斎藤は斬りこんでく土方を「何がなんでも守る」と事ある毎に
 言い続けるし、土方は土方で「お前だけは来てくれると思ってた
 のに…っ」と堂々と口にしてくれてる。勿論会津編の話。


 沖田は早々に退場ながらも土方によく思い起こされてる美味しい
 ポジションな上告白済み。
 これは正直女性向けの土方本だよなぁ…。




 と、守られっ子の土方ですが近藤・榎本との関係が今イチ。
 近藤はこれじゃ腰抜けだ。土方の期待や夢が重かったと言ってる
 ようなものだった。この2人はちょっと切ない。



 榎本も土方を使えるだけ使っとけ、みたいなタイプに。
 どうも黒い性格に仕立てられている。大鳥のが余程いい奴!
 富樫さんの2人とちょうど逆位置なんじゃないかな。



 多摩時代の回想もちょくちょくあり、これが非常に感傷的な
 描写ながらも感動する。のぶ姉との柔らかい関係性が好きだ。


 「徳川でもなんでもかまわない。
  こんな事でこの子を持ってかれてはたまらない」


 のぶ姉のこの心情は「硫黄島からの手紙」を観た直後の身には
 色々と感慨深かったです、はい。



 ちなみにこれは初版本で、次がアース出版社からのもの。
 今は五稜郭タワー限定で発売されているらしいが、それぞれの
 加筆・修正が大きいらしいのでこれは是非3種類制覇せねば!
 初版は図書館か古本で。