三千世界の烏を殺し」  竹田 真砂子
  祥伝社         1426円



 高杉晋作を周囲の人間、特に女性が語る短編集。
 人選は高杉自身・おうの・白石・幾松・俊輔・
 マサの七編。志士が高杉と俊輔のみは珍しい。


 みんな私情たっぷりにそれぞれ一人称で過去を述懐する
 形なので、高杉の死を何度も語られてちょっと切ない。




 全体通して強調したいのは高杉とまさの絆らしく、
 マサへの言及が多く、またやけに扱いもいい。
 美人で控えめながら賢く、人に愛される高嶺の花。


 対照的に幾松はひどい。
 美しく洗練されてはいるが気位高く僻みっぽく、桂を
 手助けした過去の栄光を鼻にかける女に…。
 しかも男好き。これじゃ桂が哀れじゃん!



 マサほどではないがおうのも悪くない。
 主に自身と白石の章で描写されるところからは一途で
 弁えのある理想的な側室に。




 キャラ立ちしてるのは俊輔。
 女にだらしない軽薄な口調、だけど女に溺れてはいない。
 明治の俊輔はどうしてああも腹が黒いのか。
 ただ、高杉本なのでちゃんと維新の功は称えてるのでOK。


 本筋ではないが富のない者に与えるのは平等という「施し」
 ではなく「成り上がる足がかりの場」であるべきだという
 部分は史実でもいいんじゃないかという程説得力がある。
 俊輔自身が史上稀に見る成り上がりなので誰も文句は言えない。






 高杉死後のおうのや高杉家についても触れている。
 本人の貢献度に比してあまりにもひっそりしている高杉家と
 マサの生活態度は高杉晋作の名やその権力に無欲だったという
 性質を一切傷付ける事がなく逆にクリーンに高めたと思える。
 こういう意味でも高杉は実に人に恵まれていたんだな、と実感。




 ところで民権や明治後の本を続けて読んだ後に高杉本を読むと
 驚くほど落ち着いて読めた。安心というか原点というか。
 佐幕から入った人や明治政府から入った人もこういうホーム
 ポジションがあるものなのかな。