馬場辰猪」  萩原 延壽
 中公文庫   938円(定価)入手は古本で2000円前後


 
 稀代の弁舌家・民権運動の寵児・馬場辰猪の伝記。
 ようやく購入しました…!




 以前載せた安永さんの本と違い現代文で書かれている分
 読みやすく、すんなり読み進められちゃう。
 著者自身の馬場の思想への推論や一般的な見解、馬場の性質的に
 顕著な面を繰り返し語ってくれるので馬場入門者さんにも優しい本。
 




 嬉しいのは小野梓との交流エピソードがたくさんある事。
 まぁ各々党結成以降は同じ戦線に立つ事はなくなってしまうけど、
 それまでは日本学生会も共存同衆でも肩を並べていたのだから
 当たり前?でもやはりこの2人に並ばれると嬉しい。


 他の周囲の登場人物としてはやや福沢が弱い気もするが代わりに
 中江がばっちり登場。「遠巻きに見守る」中江は非常に良い奴だ。
 それと末広・大石。この辺りと馬場の関係が良好で楽し過ぎる。
 あー、これ小説だったらどんなにいいか…っ!





 ホント、馬場の魅力再確認。
 講談での彼ならではの展開方とか、日記や自伝は全て英文で漢学
 不勉強者だったとか、結婚や女性に対する潔癖な理想と愛情への
 有限性信奉とか、福沢門下の公詢社員なのに自由党員の変り種とか。
 並べてみると不完全さが浮き彫りになります。でもそこが魅力。



 とかく急進派で才走ったラディカリストと思われ勝ちな馬場の内面の
 暗澹たる葛藤や失意に関してはかなり丁寧に描写している。


 それでも生涯転向・変節を決して選ばなかった信念の人である馬場
 への敬慕が終始読み取れます。やっぱり馬場好きとしては嬉しい。






 安永さんの本でも馬場のかなり攻撃的な投稿文を見られたけど、
 ここでも健在。こちらでは英国でのものより「天賦人権論」が凄い。
 加藤弘之への攻撃の激しさを余す事なく紹介してくれている。




 他に板垣について厳しい評を書き残したものもよく出てくるけど、
 亡命後のこの類には萩原さん自身が色々な角度で保留を付している。



 資料的に完璧な人物ではないので所々「筆者の見解である」と
 明記してあったりしてかなり慎重な方だなぁ、と。






 恐らく馬場の一生を通して付きまとった『澱』にも詳しい。
 馬場は豊かな学識を得る過程で余りにも仲間に恵まれていたので、
 だからこそ自分と同レベルに話せない人間に対しては掬い上げたり
 その意を汲み取ったりなどとする前に苛立ったり絶望したりする。


 でも馬場の信念はそういう大多数の民衆の利の為に闘う事で、
 そこで深刻な葛藤が生まれる。自分だけで出来る闘いじゃない
 というのも十分過ぎる程知っていたからですね。


 萩原さんの「理念の民衆と現実の民衆の乖離」という表現は
 とても的を射ていて絶妙だと思う。




 この方の2面性の描き方は暗さを伴う分美しいドラマに仕上げる。
 馬場を主人公に選んでくれてありがとう…!