幸運な志士」  三好 徹
  徳間文庫    550円(定価) (リンク先は日本宰相列伝)



 維新を生き残った明治初期政府の大官達の短篇集。
 俊輔・黒田・狂介・大隈・西園寺・原のチョイス。
 結構味のあるチョイスじゃないかなと思った。




 表題の幸運な志士は俊輔のこと。言い得て妙。
 確かに日本史上稀に見る成り上がり方は幸運なしには
 ありえないでしょう。けどそれにもましてかなり冷静
 な俊輔です。腹黒いとは違うけれど保身ではなく自分
 に最も利をもたらす選択を冷静に選ぼうとしている。
 明治以降はともかく幕末期はもう少しノリで行動していた
 と信じてるので違和感があった。



 黒田・狂介はすっごい可哀そう。
 長州閥の和気藹々として雰囲気に憧れて薩摩閥から微妙に
 外れていってしまうのは俊輔と対照的に不器用かつ不運。
 ちなみに高杉と対面場面が新鮮。桂のが我が侭だったりする。
 狂介の項では俊輔に対する攻山寺決起時の引け目と三浦梧郎の
 山県憎し加減が印象的。ついでに鳥尾も出て欲しかった…!



 大隈のみやや不満…。てか物足りない。
 幕末から明治のほんの初期までがメインだからかもしれないが
 それにしても一応死まで書いてるのだから小野梓くらいは…っ。
 それと江藤に対してもう少し思い入れのある大隈のが好きだ。




 西園寺と原。
 やたら奔放で岩倉から敵視されている西園寺。
 でもやはりこのページ数では登場すべき人もはしょられていた。
 原に関しては長州閥との関係の深さがしっかり説明されてて
 分かりやすいんじゃないだろうか。





 この中に名前しか知らない、という人物が居た場合はおいしい一冊。
 ここで人柄や功績や人間関係に興味が湧く可能性も結構あると思う。
 深くはないけどさっくりと分かりやすい。
 三好さんならではの小説調なので非常に読みやすいし。





 ちなみに絶版ですが日本宰相列伝(上巻)に含まれてます。
 幸運な志士自体はアマゾンで入手可。