馬場辰猪」  安永 梧郎
 みすず書房    7350円



 明治初期の自由民権運動家。自由党の理論的実践的指導者。


 一時帰国を挟み7年程の英国留学生活を無駄なく生かした
 希代の政論家、福沢諭吉に惜しみない称賛を贈られた美形弁士。
 慶應義塾門下であり、後に教鞭まで取る秀才、と思いきや
 英国で留学生仲間の真辺と傷害事件を起こして帰国となった
 アグレッシブな一面を持つ土佐人。




 ……これくらいでいいかな、彼の称号。
 とにかく新知識の申し子な彼を称える本と言えます。
 っていうかこの本自体が同時代人に書かれているので文語体の
 旧字で書かれていて読みづらい事この上ない。
 誰か現代語訳を!馬場のした古事記英訳より簡単ですよ、多分。



 そこをぐっと堪えて読んでみると馬場の著述した「日本条約改正論」
 「外交論」などを抜粋して載せてあり馬場の人となりを垣間見れる。




 かなり過激です。
 日本政府に対する批判が厳しいのは基より、英国人の日本での
 傲慢な振舞いを指摘した「日本に在る英人」も攻撃的。
 西洋に長く滞在していてもかぶれていた訳ではない模様。



 更に英国人記者が日本の法制度をあげつらって批判した記事に
 対する論難はもう笑っちゃうほどに激しい。冷笑しつつ論破。
 博識で頭の回転早い人の性格が攻撃的だとホント怖い。
 安永氏も『得意の嘲罵』って言ってるし…!
 他人の凡庸さを許せない彼の倣岸と独善はいっそ悲劇的で愛しい。






 容貌について安永氏は至るところで称美していて、惚れてたのかと
 思ったけどそうではなく福沢を初め周囲の人が誉めてるんだ。
 福沢の追弔詞ではしっかり「歳十七眉目秀英紅顔の美少年」
 と言い切られちゃってる。徳富蘇峰も「唯綺麗さっぱりで何等田舎
 臭い所もなく〜」などと書き残してるし「天性の品位」とも言われた。
 これで短命なんだからもっと女子受けしてもよさそうなのにね。




 彼の人生を語っても仕方ないのでやめておきますが本のページの
 半分以上を占める馬場の著述文章を読めるのはおいしい。



 日本政府を敵と見なし俊輔や聞多を名指しで難詰されると長州贔屓
 としては複雑…。でも民権家も同時代の政府側同様魅力的なメンバー
 なんだよな。馬場は個人的にその筆頭。




 タノムトコロハテンカノヨロン メザスカタキハボウギャクセイフ


 この一文だけで骨抜き!