歳月(上)新装版  歳月(下)新装版
  「歳月」     司馬 遼太郎
  講談社文庫     (各)749円




 主人公・日本近代司法の祖たる江藤新平


 司法省創設・警察機構の整備・裁判所設置・民法典編纂がメジャーな功績。
 渡航経験もなく外国語に通じていなかったクセに、当時の誰よりも
 欧米の近代法に通じていたという異彩の民権的弁舌家。




 大隈・大木・副島・江藤で「佐賀四傑」と言うらしい。
 欧米の法を大量に訳させた際憲法・民権・警視・巡査等々の用語を
 定めた人だったりもする。






 本の舞台は江藤が京へ脱藩した文久2年から彼の不遇の最後まで。
 ただ、江藤は維新回天の間は全くもって表に出てこられなかった
 ので主には戊辰後、というか司法に携わってからが本領発揮です。



 聞多や狂介(山県)を一時的に廃するほど追い詰めたりして参議に
 上り詰めるあたりは爽快。
 さすが司馬先生!江藤が「一部に突出した人間は一部に欠落する」
 典型のように書かれているがそれがまたナンとも魅力的。





 法律的論理・刑名的論理に寄って立つ非常希代の討論家である部分は
 真に格好良く強調されてる。代わりに理想主義過ぎる故に抜けきって
 いる一寸先の現実認識すらも江藤の人物としてはリアルな気がする。




 佐賀藩及び佐賀人についても細々と小ネタ混じりにあるのでそちら
 でも楽しめてしまうお得な一冊(二冊だけど)





 大久保の心中も江藤と比較されつつよくページが割かれてる。
 江藤最終の段階では「おおくぼ〜っ!!そこまでするかっ!」
 と糾弾したくなるけど、逆に江藤には好意的になれちゃう。
 下巻の後半辺りから出張る江藤門下の香月経五郎が何気に好きだ。
 イギリス帰りのお洒落な書生。でも大あたま。何故。


 本当に司馬先生は偉大だ。
 大隈や副島や桐野やそして資料なさそうだが香月にもハマりそうだ。
 コレだけ魅力的に歴史人物を描き、かつ主人公にはいつも優しい。





 佐賀の乱を初めてこの本で知ってしまうととても非道な鎮圧だと
 思い込んでしまうんじゃないかな。逆からの本も読むべき。
 でもやはり読後は思い切り大久保と河野敏鎌を罵倒しておこう。