「梟首の島」   坂東 真砂子
  講談社    (各)1785円



 1887年土佐からの留学生がロンドンで割腹。
 その死を語る為に物語は自由民権運動拡大の日本へ。
 運動に魅せられた土佐の岩神兄弟のそれぞれの選択が
 シリアスドラマに仕立てられている。
 舞台はロンドンと東京、そしてちらちらと土佐。



 史実的な部分も多くて結構楽しめるし馬場と真辺に至っては
 名前が出ただけでにやけるくらいだった。アヤしいっての。
 他にも土佐人目白押し。ナイスチョイスだ!



 当時の西欧化新知識が持て囃された裏側では、多くの留学生
 がかなり悲劇的な末路を遂げていたり、失意や挫折が溢れて
 いたりした時代の影を坂東さんらしい描写で描いている。


 また、日本での民権運動が自壊してゆく様も鬱感たっぷりの
 筆で説得力抜群だ。うん、暗い。
 この破滅への暗さがあるから民権運動は飽きないんだなぁ。
 そして美しいドラマ性を内包している。



 馬場の留学だって共に渡航した4人中3人は早々に死亡。
 1人は酒に溺れ行方知れず。(後に見つかったけど)
 馬場にしたって順風満帆からは無縁で海外で客死だし。
 エリートコースの前提だった西欧行きだけど、実際にそれを
 生かしきり、教科書に名を残しているのはホントに一握りも
 いいところなんだと改めて実感できる本だった。




 史実以外のキャラは今イチ魅力不足な感もあるけれど、
 時代があれだけ魅力的だからいいんじゃないかな。
 描写的にエロい部分もあるのでそういうのが嫌いな人は注意。
 ってかそういうの嫌いな人は坂東さんの本は読まないか。


 兄弟の母も出張るので女性の権利・婚姻制度への認識も興味深い。
 不気味なムードの筆も明治初期の混沌や模索にマッチしてる。
 これは時間を掛けず勢いで上下巻、読みきるべき!