「自由民権」    色川 大吉
   岩波新書      819円



 色気のない研究文、の筈が激萌え!
 民権期の檄文って何でこんな美しいの!


  仰いで芙蓉峯の高きを望み、俯して琵琶湖の深きを見よ、
  豈に美なる山川に非ずや、豈に愛すべき邦土に非ずや
  此の美なる山川に、此の愛すべき邦土に、居住棲息する
  我が同胞三千五百有余万の兄弟よ


 この「同朋兄弟に告ぐ」という檄文は岡山から発せられた。
 こんなんで煽られたらそりゃ命もかけるわ。



 民権家は有名どころよりも民衆間の壮士に重きを置いて、
 「民衆史」を謳っている。
 数多い私擬憲法でも五日市憲法に一章を割く程だし、いわゆる
 激化事件という自由党下部党員や農村民の自覚的抵抗には高評価。
 てゆーか世上の評価の低さに同情的。



 初期民権期が主題なので、明治7年辺りから大同団結くらいまで
 が主な舞台。と言っても時代を単調に辿るのではなく、各章毎に
 かなり的を絞っている。



 前述の五日市憲法や各地の激化事件のほか、当時の囚人の有様や
 兵に対する政党毎の主張の傾向や亡命民権家等、かなり綿密に
 資料発掘に努めていて読み応えばっちり。


 もちろん時系列も根底にあって語られているので話があちらこちら
 に飛ぶこともないし、こういう研究本にしては格段に読み易い。
 流れ的に自然と自由党中心の見方で、一つだけ、人物に関しては
 著者の好悪が結構強く反映してるのかな、と思わないでもない。


 植木・馬場・板垣は好きらしい。
 改進党系は嫌いらしい。


 のような。植木についてはマジで!?って程「格好良い」
 めちゃめちゃ立派な運動先導者なんですけど!


 あの奇矯な言動妄想に一言も触れずに植木を語るとは。
 馬場も亡命民権家の『誇り』『鑑』と崇められてる。
 こっちが照れる。つーかこんなの馬場じゃない!
 もっと偏狭で高慢で孤独な在野人でいて。



 色川先生は民権期を大変愛してらっしゃるのがよく分かる。
 最終的には挫折・壊滅・妥協が待ち受けているのだけど、それを
 知っているからこそ当時の熱狂振りや真剣さがますます貴重だと
 改めて思い知らされました。



 著者曰く「日本のきらきらした青春時代」自由民権期。
 やっぱり好きだ。この時代。