植木枝盛」   米原 謙
  中央公論社    683円(定価)



 「猿人政府 人ヲ猿ニスル政府」
 という強烈な投書をした植木なので元々のイメージは
 馬場に近いラディカルで先進的な雄弁家だったのだけど、
 結構真逆だったりした。

 正体不確かな「心」にここまで傾倒している人だったんですね!


 ていうかまさに奇特も極まれりな夢を見てくれて、もういっそ
 微笑ましい程で、ますます好きになりました枝盛!



 枝盛の思想を追うという視点からの本なので、その語り具合は
 目が痛くなるというか自分の理解力が極限まで試されてるというか
 そういう感じの本ではあるので、明治・民権になれていないと
 ちょっとツラいだろうと思われます。


 けど枝盛自身の言動(主に「無天雑録」から)の奇矯さは充分過ぎる
 程に楽しめる。実際目の前にいたら愉快がってはいられないだろう
 けど。一笑に伏されて自信失って終了、みたいな。




 著者の見方なのかどうも枝盛の未熟さや青臭さが際立っている。
 思想の変遷という点では細かに追いかけているので理解しやすい。



 実際英語も仏語も習得していないのでその辺りの、西洋知識の
 理解の不十分さは否めないと思われるけれど、逆にそれが馬場の
 生涯囚われた「愚昧な民衆に対する深刻な葛藤」から自由であり、
 最も平易と言われる民権運動によりアピール力の源泉だった。
 現在馬場より枝盛の名のがメジャーな事を考えると「新知識」
 も良し悪しだったのかな…。



 そう言えば彼の言葉は力のあるモノが多い。
 「自由ハ土佐ノ山間ヨリ発ス」
 「世ニ単ニヨイ政府ナシ」
 「自由ハ鮮血ヲ以テ買ハザルベカラサルノ論」
 「未来ガ胸中ニアル者、コレヲ青年トイフ」
 どれも有名で、民衆の目を引くのも当然と思える言葉だ。




 それとこの本の素敵なところ、同時代の小野・馬場・中江との比較が
 ちょこちょこ出てきてくれるので物凄く有難い枝盛本でした。


 ちなみに古本屋か図書館で読めます。