「福地 桜痴」    柳田 泉
 吉川弘文館     1995円




 旧幕臣からジャーナリストへ、そして芸界へ転身したリアリスティツクな粋人。


 福地源一郎と福地桜痴とどちらの名が有名なんだろう。
 桜痴という号のが字面が綺麗で好みなのだけど。
 その由来が吉原の桜路という妓に夢中になったからというのもいっそ魅力的。



 素でハイテンションな方だったというがそれが高じてかどうか、近代日本の
 新聞に対する弾圧第一号という栄誉まで得てしまった人ですね。



 桂さんと随分気が合ったようだし、歌舞伎座の演劇改良会では俊輔・聞多と
 共にメンバーだったりするので長州派とは結構繋がりが深い。
 かと思うと新選組剣豪秘話(元『新選組剣豪秘話』)では福地の談として
 土方についてつらつらと描写されてたりもする。
 長身で色白の男前で如才なく少し気障なところもあり…などなど。


 福地だって侘び寂び粋を心得ながら一癖あるタイプなのだから気が合うんじゃ
 ないかと思ったがそうでもなくやや鼻につくところがあったみたいだ。
 ちなみに伊庭が近藤道場に出入りしていたという一説の後押しもしてる。
 伝記なので文体の面白さなどは期待できないが余計な脚色もないと思われる。





 東京日日新聞の隆盛と凋落もしっかり書かれていて分かりやすい。
 当時の人間関係は政府・反政府共に結構個人レベルではごちゃ混ぜで
 意外なところで交流があったりするのが面白いのだけど、福地も随分顔の
 広い人で、主流の出来事より雑多な小ネタ集めが楽しい。


 馬場とは逆に日本語の名文家として自他共に認められていたがそれにしても
 結構な原稿料をふんだくっていたのは笑える。
 この人を主軸にした小説が出たら幕末から明治の有名人総出になって、
 逆に収集つかなくなりそうだ。




 西南戦争への従軍では他のジャーナリストに「福地自らが出るのか」と驚かれて
 いたようで常に大物風が吹いている御仁だという印象を受けた一冊。
 …これだけ書くと福地が単なる放蕩な記者に思えるが維新をナマで見た佐幕人
 ならではの興味深い著書もしっかり残されております。
 「幕府衰亡論」「幕末政治家」「懐往事談」などですね。




 福沢諭吉と並び証される程の才ある文筆家だったのに今いち不遇な印象が
 拭えない。個人的な魅力では福沢以上だと思うんだけどな。