司法卿 江藤新平」   佐木隆三
  文藝春秋    1630円(定価)



 主人公・江藤新平、の筈がそうでもない。
 新設された京都裁判所と京都府の権限問題がメイン。


 発端となる事件は豪商小野組関連で説明も詳細なのはいいんだけど、
 江藤の名前を何ページも見てないんですが、という状態によく陥る。



 一民事事件がどんどん発展して桂まで画策に引き出されるのは見事です。
 大久保すら手玉に取りかねない強気な桂さんは明治話では珍しい。
 が、征韓論よりこの民事事件に重きを置いていたってのはちょっと…。




 明治4年から6年辺りの司法系の事件や小競り合いを時系列無視で
 思い付いたように並べてくるのでこれには混乱する。
 「この時江藤って司法卿?参議?」「この時期この達しはでてたっけ?」
 などと何度もページを戻る羽目になった。
 話の主流には関係ないけど桂・聞多の会話がいかにも昔馴染みという
 気安い雰囲気に溢れていて長州贔屓としては大変満足。




 とまあ、江藤以外に流れていってしまう本でしたが、プロローグは別。
 ここで江藤の半生と佐賀の乱終結後のアノ裁判も出てくる。
 大久保が…、キレてんのかというくらい冷酷。「笑止千判」て!
 死刑囚に向ける言葉じゃない。しかも日記に書くなよ。
 江藤を好きになるならやっぱり「歳月」のがお勧め。


 でもこの時代のぐだぐだな司法的問題や官吏同士の認識の食い違いは
 よく勉強できる。陸奥や副島もちらっと出るのは密かに嬉しい。
 ただし絶版なのでやはり古本屋か図書館で。